日本人の耳

表意文字である漢字を使用する日本人は、言葉を理解するときについつい文字に頼ってしまいます。だから知らない英単語を聞くと「どう綴るの?」と聞かずにはいられない、文字を見ないとなんとなく安心しませんよね。日本人が外国語を習得するのが苦手なのはこういうところにも原因があるのかもしれません。

しかし、開国時代の日本人たちはアルファベットを知らなかったため、欧米人の話す言葉に対して「どう綴るの?」と聞くこともできず、耳で聞くままに覚えるしかありませんでした。当時入ってきた外来語には綴りからはほど遠いけれども、英語の発音を考えるとなるほどと納得できるものが多くあります。

最近はこの言葉を使う人も少なくなりましたが、小麦粉のことを指す「メリケン粉」。国産の小麦で作ったうどん粉に対して、品質の良い輸入粉を指して「American(アメリカン)」粉と呼んだものです。「アリカン」と「メ」にアクセントを置く英語の発音をよく表してますね。神戸の「メリケン波止場」はすぐ近くアメリカ領事館があったことに由来します。

ローマ字表記法の一つに「ヘボン式」があります。創始者であるアメリカ人宣教師の名前に因むのですが、「ヘボン」とは聞きなれない名前ですね。しかしその綴りは「Hepburn」。そう、あの「Audrey Hepburn(オードリー・ヘップバーン)」と同じ名字なのです。実際には「p」はほとんど発音されないため、「ヘップバーン」と言うよりは「へボーン」の方が元の発音には近いというわけ。

T字形をした「Tシャツ」からの発想で、襟の部分がYになっているのが「Yシャツ」と思っている方も多いと思いますが、これは英語の「white shirt(ホワイト・シャート)」がなまったもの。「bookkeeping(ブックキーピング)」に漢字を当ててすっかり日本語に化けてしまっている「簿記」なんて芸術的ですらあります。カタカナ読みで「ブック・キーピング」と発音するよりは「簿記」とそのまま言ったほうが意外に通じるかも!?

現代人も文字ばかりに頼らずもっと耳の訓練が必要かもしれませんね (^_^з。


おまけ ― 幕末から明治にかけて、西洋の犬のことを「カメ」と呼んだ時代がありました。英米人が飼い犬を呼ぶ「come here(カム・ヒア=おいで)」が、日本人には「カメや」と聞こえたのです。