槍族と斧族

紀元3世紀頃、現在のドイツにあたるライン川のほとりにゲルマン系の種族「Frank(フランク)」人が住んでいました。この民族名は彼らが好んで使った武器「franka(フランカ=投げ槍)」に由来するとされています。一方その東のエルベ川河口付近には主に「sax(サックス=斧)」を武器とするやはりゲルマン人の一種族「Saxon(サクソン)」人が住んでいました。

ゲルマン族の大移動が始まると、フランク人はガリア地方へと南下して広大な王国を築きます。この時彼らがライン川を渡った場所の一つが「Frankfurt(フランクフルト)」(関連ページ「コインと語源で旅するアメリカ50州 〜 Connecticut」)。一方のサクソン人は、その一部が今のイギリスにわたり、いわゆる「Anglo-Saxon(アングロ・サクソン)」民族の一端を担います(関連ページ「釣り針の国」)。イギリス南部の地名「Essex(エセックス)」や「Sussex(サセックス)」は、それぞれ「East Saxons」、「South Saxons」の意味です。かつては「Wessex(ウェセックス)」、「Middlesex(ミドルセックス)」の地名もあり、サクソン人が支配した地域を指していました。

さて、フランク王国は「Charlemagne(シャルルマーニュ=カール大帝、742〜814)」の時代に全盛期を迎えます。この帝国の下で「自由」を持っていたのはフランク族だけでした。ここから「frankly speaking(=正直に言うと)」の成句でお馴染みの「frank(フランク=率直な)」の意味が生まれました。契約店に経営の「自由」を与える形態「franchise(フランチャイズ)」も同源の言葉です。

フランク人は「ローマへの道」でもふれたローマ人と並んで、数少ない「良い意味で使われる」民族名です。また、カリフォルニア州「San Francisco(サン・フランシスコ)」の名の由来ともなっている、フランシスコ会を創立したイタリアの聖人「Francesco(フランチェスコ)」の影響も手伝って、「Frank」から派生した人名はヨーロッパ各言語でポピュラーです。フランス語の「François(フランソワ)」、ドイツ語の「Franz(フランツ)」、スペイン語の「Francisco(フランシスコ)」などは日本でもお馴染みですね。

カール大帝の死後、王国は西フランクと東フランクに分裂します。現在の「France(フランス)」の国名はフランク王国の名に由来するもので、西フランクがその基礎となっています。そして一方で東フランクはサクソン人を中心とする「Sachsen〔独〕(ザクセン)」王国を経て、現在のドイツのもととなっていくのです。


おまけ ― 「Frank」由来の英語名は「Francis(フランシス)」ですが、その愛称「Frank(フランク)」や「Frankie(フランキー)」は、共に若い頃米軍キャンプで演技していた「フランク永井」や「フランキー堺」の芸名にもなっています。フランク永井の方はアメリカの歌手「Frank Sinatra(フランク・シナトラ)」にあやかった名前です。