魅惑のかほり

古くから香料や薬の原料として使われてきた「ジャコウ」、ジャコウジカという鹿の雄の下腹部にある嚢状の腺から分泌されるフェロモンです。漢字では「麝香」と書くのですが、文字に「鹿」という部首が含まれていることからも分かるように、「麝(じゃ)」の一字だけでジャコウジカのことを指します。すなわち「麝香鹿(じゃこうじか)」という名前は「ジャコウジカの香りを出す鹿」という、無限ループに陥りそうな意味なのです。

それはさておき、麝香は香料の王者とされ、強い臭いを発する多くの動植物の名前に冠されます。ジャコウネコ、ジャコウネズミ、ジャコウアゲハなどは、名前を聞いたことがある方も多いでしょう。他にもスイート・ピーは「麝香豌豆(じゃこうえんどう)」、カーネーションは「麝香撫子(じゃこうなでしこ)」の異名を持ちます。

麝香は西洋でも用いられ、英語では「musk(マスク)」と呼ばれます。網目模様でお馴染みの「musk melon(マスクメロン)」、ブドウの品種「muscat(マスカット)」は共に、麝香のように良い香りがする、の意味から名付けれられました。ところでこの「musk」という言葉、その先祖はペルシャ語の「mushk(=睾丸)」。麝香の採れる場所が場所なだけに仕方がありませんが、今度メロンやブドウを食べる時にはちょっと考えてしまいそうですね。


おまけ ― この「mushk」の語源をさらにさかのぼってみると、現代英語でいうところの「mouse(マウス=鼠)」に行き着きます。2匹の鼠が丸まっているように見えたのでしょうか。英語の「muscle(マッスル=筋肉)」も、その動きが皮膚の下を鼠が走っているように見えることから、やはり同源の単語です。


TAKASUGI Shinji's Gallery』の高杉さんからこんなメールを頂きました。

ご存知かもしれませんが、「香り」の旧仮名遣いは「かをり」で、「かほり」ではありません。「シクラメンのかほり」という曲がありましたが、あれは間違いです。

ご存知ありませんでした(^^ゞ。早速調べてみると、正しい歴史的仮名遣いはご指摘の通り「かり」です。一方「かり」の表記もかなり古い時代にまで遡れるようです(参考:『假名遣の歴史』)。但し、現在の表記の揺れに「シクラメン…」が大きな影響を与えていることも確かでしょう。この歌の題名の背景には、小椋桂の奥さんのお名前「佳穂里」があるようです。