サンタと悪魔

早いもので今年もまたクリスマスが近付いてきました。というわけで今年は「Santa Claus(サンタ・クロース)」を肴に年忘れです。

サンタの名は「聖ニコラウス」を意味するオランダ語「Sinterklaas(シンタークラース)」が訛ったものだと言われています(普通に考えると「Santa」は女性形ですからね^^;)。つまり「Nicholas(ニコラス)」の語頭が省略されたのが「Klaas」というわけです。聖ニコラウスは紀元4世紀の司教で、子供を守護し貧者に贈り物を与える聖人として崇拝されていました。もともとは命日である12月6日が彼の祝日だったのですが、これがクリスマスと結びつき、アメリカでそのイメージが膨らんだのが現在のサンタです。「Nicholas」の名は、ウォーターゲート事件で辞任した第37代米大統領「Richard Nixon(リチャード・ニクソン、Nixon=Nick+son)」、プロゴルファーの「Jack Nicklaus(ジャック・ニクラウス)」、長野の黒姫に住む作家の「C.W. Nicol(ニコル)」等の父称も生み出しています(関連ページ:「おまえの父さん…」)。

「Nicholas」の原義はギリシャ語で「nike(ニケ=勝利)」+「laos(ラオス=人々)」。ルーブル美術館にあるサモトラケのニケ像で有名なギリシャ神話の勝利の女神「Nike(ニケ)」の名前も納得ですね。スポーツ用品メーカーの「Nike(ナイキ)」はこの女神に肖って名付けられました(弧の形をしたあのマークは彼女の翼を象っています)。地中海に面するフランスの港町「Nice(ニース)」も彼女に因む地名です。

さて、ここまで読む限りでは良い意味ばかりのように思える「Nicholas」たちですが、どこでどう道を誤ったのか、「悪魔」の意味を帯びるようになります。英語で「Old Nick(オールド・ニック)」と言えばずばり「悪魔」のこと。金属元素の「nickel(ニッケル)」はドイツ語の「Kupfernickel(クプファーニッケル=ニッケル鉱)」に因みますが、前半の「Kupfer」は英語の「copper(コッパー=銅)」にあたる単語。当時の鉱夫たちは、銅鉱石に似ているけれども銅を含まないこの鉱物を「Nickel(ニッケル)」という悪鬼のいたずらによるものだと考えたのです(同様に英語の「goblin(ゴブリン=小鬼)」にあたるドイツ語「Kobold(コーボルト)」を語源とするのが原子番号もお隣の「cobalt(コバルト)」です)。さらにやはりドイツの「Pumpernickel(プンパーニッケル)」という酸味のあるライ麦パンがありますが、こちらの単語は英語の「pump(パンプ=押し出す)」にあたる「pumpern(プンパーン=おならをする)」に由来。このパンを食べるとよくガスが出ることから、「屁をふる嫌なヤツ」というニュアンスのこの名前がついたとされています。

最後にもう一つ、「Nicholas」から派生した父称の一つにフランス語の「Nicot(ニコ)」がありますが、この姓を持つ16世紀のフランスの外交官「Jacques Nicot」は新大陸アメリカからタバコを入手して本国に流行らせました。彼の名を冠する猛毒物質がご存知「nicotine(ニコチン)」。銅を盗んだり屁をこいたりする悪魔よりよっぽどタチが悪いですね。(-_-;)


おまけ ― アメリカで「nickel」と言えば5セントコインのこと。このことから米語で「nickel」は「5」を表す隠語として使われることがあります。「double-nickel」は時速55マイル制限のこと(かつてアメリカのハイウェーは全国一律に最高速度55マイルでした)、「nikelodeon」は入場料5セントの映画館、「nickel bag」は5ドル分の麻薬、「small nickel」「big nickel」はそれぞれ500ドル/5000ドルの賭け金を意味します。