女房詞

女房詞(にょうぼうことば)とは、室町時代初期に宮中に仕える女官たちの間で上品な言葉遣いだとされて使われ始めた隠語表現のことです。その代表的なものに「お」のつく単語があり、腹を「おなか」、強飯(こわめし)を「おこわ」、欠餅(かきもち)を「おかき」と呼ぶなどの例があります。味噌汁のことを「おつけ」と呼ぶのもこの類で、これにさらに二つ「お」をくっつけたのが「おみおつけ」、漢字で書くと「御御御付」となります。

お彼岸に欠かせない「おはぎ」も女房詞。周りにまぶした粒餡が萩の花が咲き乱れた様子に似ていることからこの名がつきました。春には牡丹の花に見立てて「牡丹餅(ぼたもち)」とも呼ばれます。

「屁」よりは上品な言い回し「おなら」も女房詞といわれています。「鳴らし」に「お」がついたというのが一般的な説ですが、私が大好きなのは、百人一首にある和歌「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重に匂ひぬるかな」の「匂ふ」からの連想で「御奈良」となったとの説です(奈良の皆さんゴメンナサイ)。

女房詞のもう一つの代表的タイプが「〜文字」型。「髪の毛」を「かもじ」、「寿司」を「すもじ」、「にんにく」を「にもじ」、「恥ずかしい」ことを「はもじ」などと言います。三三九度のことを「九献(くこん)」ということから「酒」は「くもじ」と呼ばれます。その他にも多くの例がありますので興味のある方は「あ」から「わ」まで辞書をめくってみて下さい。

このような単語を「文字詞(もじことば)」と呼びますが、今でも使われる文字詞には「杓子(しゃくし)」を意味する「しゃもじ」、「饑い(ひだるい=空腹である)」ことを意味する「ひもじい」などがあります。

熊本に「ひともじのぐるぐる」という、ねぎ(分葱の一種)を茹でて一口大に束ね、酢味噌で頂く郷土料理があります。かつて「葱(き)」と一文字で呼ばれていたねぎをあらわす女房詞「ひともじ」が、はるばる熊本にまで伝わったものです(これに対して「ふたもじ」というと「韮(にら)」のことを指します)。この「き」の頭に「根」が付いたのが「ねぎ」、苗を分けて育てる種類が「分葱(わけぎ)」、土の中の部分が浅い種類が「浅葱(あさつき=浅い葱)」です。「萌葱色(もえぎいろ)」、「浅葱色(あさぎいろ)」など色の名前にも使われていて、ねぎが昔から日本人に愛されてきたことが分かりますね。