父の思い出
3月17日は聖パトリックの祝日。聖人「Patrick(パトリック)」は、紀元5世紀のアイルランドでキリスト教の布教に努めた司教です。「Patrick」の女性系が「Patricia(パトリシア)」で、いずれも「patrician(パトリシアン=貴族)」に由来する名です。フランダースの犬の名前「Patrasche(パトラッシュ)」も、おそらく同じ系統の名前でしょう。
「patrician」の源を辿ると、英語で言えば「father」に対応する、ラテン語の「pater(パーテル=父)」に行き着きます。父のような指導力を持つのが貴族だったわけです。ところでカトリック教会では司祭のことを「神父」と呼びますが、これはおそらくポルトガル語の「padre(パードレ=父、神父)」を訳した単語と思われます。「padre」は「バテレン」と訛って日本語に入り、「伴天連」や「破天連」と漢字を宛てられた上に、意味までもが「キリスト教あるいはその信者」を表すよう変化しました。
「pater」の派生語に、「patriot(ペイトリオット、パトリオット=愛国者)」がありますが、これは「父を共にする者」ひいては「同郷の者」が原義です。「パトリオット・ミサイル」の名でこの単語をご存知の方も多いと思いますが、こちらは(こじつけですが)「Phased-Array TRacking and Intercept Of Target」の略とされています。
日本語では「水商売の女性に経済的援助を与える人」というイメージの強い「patron(パトロン=庇護者)」も、同じく「pater」の子孫ですが、英語では「patron saint」すなわち「守護聖人」の意味も持ちます。この「patron」は、さらに「父」や「保護者」が果たす「手本」あるいは「模範」の役割のことを指すようになり、「pattern(パターン=型)」という異形も生みました。銀塩時代の写真フィルムの外装「Patrone〔独〕(パトローネ)」の原義も「型」。デジタルカメラの普及により、日本ではこの「パトローネ」という単語も急速に忘れ去られていく運命にあるのでしょうが、ドイツ語では「カートリッジ」といった意味で、インクカートリッジや銃の薬莢なども指す一般的な単語です。因みに日本語の「ハトロン紙」はドイツ語の「Patronenpapier(パトローネンパピアー)」が訛ったもので、現在の形の薬莢が発明されるまで、銃に弾丸と火薬を装填するために使われていた薬包紙に由来します。
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