ロバっち、糸っち、タオルっち
ラテン系の言葉の多くに共通して「小さくてかわいいもの」を表す「指小語尾」と言われる接尾語があります。例えばスペイン語で「señorita(セニョリータ=Miss)」は「señor(セニョール=Mr.)」に指小語尾「-ito」の女性形「-ita」がくっついたもの。この指小語尾を省いてみるだけで語源の分かる言葉が意外に沢山あります。
タコスと並んで人気のあるメキシコ料理「burrito〔西〕(ブリトー)」からこの語尾を取ると「burro〔西〕(ブーロ=ロバ)」。肉、豆、チーズ等の中身を挟んだその姿が、荷物を背負ったロバに似ているからだとか。英語で「蚊」を意味する「mosquito(モスキート)」も元はスペイン語。語尾をとると「mosca〔西〕(モスカ=蝿)」に変身です。
この「-ito」にあたるイタリア語の語尾が「-etto」で、その複数形は「-etti」。「spago(スパゴ=糸)」のようなパスタが「spaghetti〔伊〕(スパゲッティ)」です。「-etti」がつくと「g」の後ろに「h」が入るのは「スパジェッティ」と発音されるのを防ぐためです。
この種の単語で私たちに身近なものは、英語にも多く輸入されているフランス語に多くあります。もっとも身近な例は「toilette〔仏〕(トワレット=トイレ)」。お尻の「-ette」をとると「toile〔仏〕(トワル=タオル)」ですから、小さなタオルが備えてある場所が「トイレ」というわけです。「便所」を示す単語はどこの国でも遠回しな表現をしたがるもので、これもその一つの例と言えるでしょう。
愛煙家にはトイレよりもタバコの方が一日にお世話になる回数が多いという意味でより身近かもしれません。「(紙巻)タバコ」を意味する「cigarette〔仏〕(シガレット)」は「cigar〔仏〕(シガール=葉巻)」に「-ette」がついた「かわいい葉巻」です。因みに「cigar」はその姿から昆虫の「セミ(英語はcicada)」に由来する、と聞くと葉巻をくわえる際にちょっと躊躇してしまうかもしれません。
「毛布」を意味する「blanket(ブランケット)」の元の単語は「blanc〔仏〕(白い)」。英語で「blank(ブランク=空白)」にあたる単語です。アルプスの最高峰「Mont Blanc〔仏〕(モン・ブラン)」も意訳すれば「白山」、映画で有名なモロッコの都市「Casa Blanca〔西〕(カサ・ブランカ)」の「casa」は「家」の意味なので、英語に直せば「White House(ホワイト・ハウス)」になります。話がそれましたが、毛布はもともと白い布だったんですね。この「-et」のつく単語には、他にも「cabinet(キャビネット=たんす)」、「closet(クローゼット=戸棚)」、新しいところでは長野オリンピックのマスコット「snowlets(スノーレッツ)」、Java「applet(アプレット)」など、数え切れないほど多くの例があります。
これらの「-ito」「-etto」「-et」を日本語で説明しようとすると、以前は、『北海道弁の「棒っこ」「牛っこ」の「っこ」みたいなもの』とのかなり苦しい説明しか思い付かなかったものですが、近頃は『「たまごっち」の「っち」だよ』の一言で済ますことができる便利な(?)世の中になったものです。
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