聖なる梨

太陽の光が燦々(さんさん)と降り注ぐアメリカ西海岸、その中でも特に「San Francisco(サン・フランシスコ)」から「San Diego(サン・ディエゴ)」の間の都市圏を指す「Sansan(サンサン)」地域という呼称があります。「san」はスペイン語で「聖…」を表す単語に由来しますが、この地域の地図を眺めてみると、都市名はもちろん、多くの山や島の名前にも冠されています。シリコン・バレーの中心地「San Jose(サンノゼ←サン・ホセの転訛=聖ヨセフ)」は日本人にもお馴染みの地名ですね。中南米にもプエルトリコの中心都市「San Juan(サン・フアン=聖ヨハネ)」、エルサルバドルの首都「San Salvador(サン・サルバドル=聖なる救世者→救世主)」、チリの首都「Santiago(サンティアゴ=聖ヤコブ)」など多くの例があります。「san」に対応するポルトガル語がブラジルの都市「São Paulo(サン・パウロ=聖パウロ)」の「são」です。

「san」は「santo(サント=聖人)」の語尾が消失した形です。「san」に比べると使用頻度は少ないですが、ドミニカ共和国の首都「Santo Domingo(サント・ドミンゴ=聖ドミニクス)」などの地名に現れます。この「santo」の女性系が「santa(サンタ)」。こちらはSansan地域にも「Santa Monica(サンタ・モニカ=聖モニカ)」、「Santa Clara(サンタ・クララ=聖キアラ)」、「Santa Barbara(サンタ・バーバラ=聖バルバラ)」を始めとして多くの地名が存在します。イタリア語でも「santa」ですが、こちらは民謡にも歌われているナポリの港「Santa Lucia(サンタ・ルチア=聖ルチア)」で有名ですね。

「san」に対応するフランス語が「saint(サン)」、これが英語に入って「saint(セイント)」となりました。フランス語の例としてはスイスの保養地「Saint Moritz(サン・モリッツ=聖マウリティウス)」やパリ西方の街「Saint German(サン・ジェルマン=聖ゲルマン)」などがあります。アルプスを越える峠の名前「Saint Bernard(サン・ベルナール)」は、この地に宿泊施設を設けて多くの遭難者を救った「Bernard de Menthon」の名に因みますが、ここで活躍した救助犬が英語読みで「Saint Bernard(セント・バーナード)」犬として知られています。また、「saintpaulia(セントポーリア)」というスミレに似た花がありますが、これはドイツ人の「Walter von Saint-Paul」男爵がアフリカで発見したもの。ドイツ語の「von(フォン)」は英語の「from」を意味しますので、この「Saint Paul(サン・ポール=聖パウロ)」は地名だと思われます(決してトイレの洗剤名ではありません^^;)。英語の「saint」が付く地名としては、米国ミズーリ州の都市「St. Louis(セント・ルイス=聖ルイ→ルイ\世)」、五大湖から流れ出す川「St. Lawrence(セント・ローレンス=聖ラウレンティウス)」川、1980年に大爆発を起こしたことで知られるアメリカの「St. Helens(セント・ヘレンズ=聖へレナ)」山(日本ではセントヘレナ火山として知られていますね)などが挙げられます。ソ連時代はレニングラードと呼ばれていた「Sankt Peterburg(サンクト・ペテルブルグ)」の「Sankt(サンクト)」は、「saint」に対応するロシア語です。

最後に雑学を一つ、キティーちゃんなどのキャラクターで知られる「Sanrio(サンリオ)」の社名は、同社のページによるとスペイン語の「san rio(サン・リオ=聖なる河)」に由来し、「人類が最初に住み始めたと言われる河のほとりに聖らかな文化を築きたい」という理念が込められているとのことです。但し、本当のところは社長が山梨県出身であることから、「山梨」の音読み「サンリ」に語呂が良くなるように「オ」をつけたのだとの説も有力です。