麻の魅力
「麻」は大麻(たいま)、亜麻(あま)、苧麻(からむし)、黄麻(こうま=ジュート)などの繊維植物の総称です。麻は古くから世界中で利用・栽培されており、日本にも「麻生(あさお・あそう)」「麻原(あさはら)」「麻布(あざぶ)」「麻績(おみ)」などの例に見られるように「麻」のつく地名や人名が多くあります。また、「快刀乱麻を断つ」といえば「よく切れる刀でもつれた麻を切る」ことから「混乱している物事を手際よく処理する」ことを意味しますが、麻の繊維の強さを表す言い回しとも言えるでしょう。「麻花兒(マファール)」という中国風揚げ菓子をご存知の方は、その名が麻縄を束ねたような形状に由来すると知れば、ああなるほどと思っていただけるかもしれません。
「胡麻(ごま)」の名は、粒が小さくて油が採れる大麻や亜麻の実との類似性から命名されました(「胡」については参照:「ゑびすの地より」)。関連して「誤魔化す(ごまかす)」という言葉は、一説に、江戸時代の「胡麻菓子」というお菓子の中身が空洞で見掛け倒しだったことに由来するとされています。
麻の代表格である「大麻」は、ご存知のように麻薬成分を含みます。ここから「麻」の字は「しびれる」という意味を持つようになり、「麻酔」「麻痺」「麻薬」などの言葉を生み出しました(「痲」の字を使うこともあります)。また、「蕁麻(いらくさ)」の仲間は茎や葉のトゲに毒が含まれているため、これに触れると痛みと共に発疹ができることから「蕁麻疹(じんましん)」の語源となっており、「麻疹(はしか)」の病名もこの症状に由来します。「麻婆豆腐」は四川省成都の「陳麻婆(=陳おばさん)」が最初に作ったといわれる料理の名前ですが、陳さんの顔に痘痕(あばた)があったために「麻」の字が入っています。このことから「麻」は「斑点がある」という意味にも使われます。例えば、中国語で「雀」の字は小鳥全般を表す漢字で、「雲雀(ひばり)」や「孔雀(くじゃく)」のように他の漢字と組み合わせて初めて特定の種類の鳥を指す言葉となるのですが、「麻雀」と書くと「斑点のある小鳥」すなわち「すずめ」のことを指します。同名の室内遊戯は、一索の牌に鳥が描かれていること(現在は孔雀や鳳凰ですがかつては雀でした)、または牌を混ぜる音が雀の鳴き声に似ていることに由来するとされています。
さて、背中を掻くための棒で「まごの手」と呼ばれるものがありますが、「まご」とは「麻姑(まこ)」という中国伝説の仙女のこと。麻姑は若い娘の姿をしていますが、爪だけは鳥の爪のように長く、これを見た蔡経という人が「あの爪で痒いところを掻いてもらったらさぞかし気持ちいいだろう」と考えた故事に由来します。「隔靴掻痒(かっかそうよう)」の対義語として「麻姑掻痒(まこそうよう)」という四字熟語まであるのですが、ジンマシンが出たところを鋭い鳥の爪で掻かれるよりは、孫の手でやさしく掻かれたいなぁと思うのは私だけ?(実は麻姑がなぜ「麻」なのかが分からなかったので、こんな落ちでゴマかしました)。
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