ブルジョアの味

室町時代にポルトガル人が長崎に伝えたお菓子「カステラ」、もともとはポルトガル語で「pão de Castella(パン・デ・カステリャ)」すなわち「カスティリア地方のパン」という意味です。カスティリアとはスペイン中央部の高地を指す地名で、英語の「castle(キャッスル=城)」と同源の言葉。北西アフリカのイスラム教徒ムーア人の侵攻を防ぐための砦が、かつてこの地に多く築かれていたことに由来する地名です。

一方、ローマ帝国の最前基地であったイギリスにも「castle」に由来する地名が多く残っています。「Manchester(マンチェスター)」、「Winchester(ウィンチェスター)」、「Lancaster(ランカスター)」などはその一例。発音だけでは分かりにくいですが、ウスターソース発祥の地「Worcester(ウースター)」の綴りにも「城」が隠れています。

この「castle」にあたるゲルマン系の言葉が「burg」。城を中心に発達した町の名前によく使われます。ドイツ北部のハンバーグ発祥の地「Hamburg(ハンブルク)」を筆頭に、綴りや発音が少しずつ違う地名が、ヨーロッパ北部や、イギリスやドイツがかつて占拠していた地に多く見られます。

地名 備考
Salzburg(ザルツブルグ オーストリア 「塩の町」の意味。
Pittsburgh(ピッツバーグ アメリカ 英国の政治家「Pitt(ピット)」に由来。
Strasbourg(ストラスブール フランス 「街道の町」の意。一時期ドイツ領。
Edinburgh(エディンバラ イギリス 「丘の町」の意。
Canterbury(カンタベリー イギリス 「ケント人の町」の意。
Göteborg(イェーテボリ スウェーデン 「ゴート人の町」の意。

他にも「-borough(ボロー)」、「-barrow(バロー)」、「-broch(ブロッホ)」など、さまざまなバリエーションがあります。デンマークのビール「Carlsberg(カールスバーグ)」やアメリカの葉巻の銘柄「Marlboro(マルボロ)」にも同じ語尾が含まれています。「Jaipur(ジャイプール)」、「Kanpur(カンプール)」、「Udaipur(ウダイプール)」など、インド周辺の地名に見られる「pur」も「城塞都市」の意味ですが、これも「burg」の親戚かもしれません(未確認)。

フランス語の「bourgeois(ブルジョア)」も実は「burg」と同根の単語。「町の」の意味から「市民階級」という意味が派生したものです。アメリカでは「hamburger(ハンブルグの→ハンバーガー)」のことを略して「burger(バーガー)」と言ったりしますが、これをそのままフランス語に訳せば「ブルジョア」というわけですね ^_^;。