太陽の沈まぬ地名

インドのお隣の国「Pakistan(パキスタン)」。この国名は1947年に同国がインドから独立する前に、イスラム圏に含まれる地方の名前「Punjab(パンジャブ)」、「Afghan(アフガン)」、「Kashmir(カシミール)」、「Sind(シンド)」の頭文字と「Baluchistan(バルチスタン)」の語尾から作られた名前です。同時にウルドゥー語で「pak(=神聖な)」+「stan(=国、地方)」の意味にもかけてあります。「-stan」は中央アジアで広く使われる地名語尾で、「Kazakhstan(カザフスタン)」、「Uzbekistan(ウズベキスタン)」、「Afghanistan(アフガニスタン)」など、多くの国名に含まれます。

ところで4番目に出てきた地名「Sind」は、現在はカラチを州都とするインダス川下流域を占める州の名前で、その語源はサンスクリット語の「Sindhu(シンドフ=川)」。元はインダス川を意味していたものが、次第にこの地方を指す名称に、さらにはペルシャ側から見てインド全体を指す名称になっていきました。中国では「身毒」と音訳された時代もあります。アラビアン・ナイトの主人公、「Sindbad(シンドバッド)」の名もこの地名に由来するとの説があります。ペルシャ語においては語頭の「s」が「h」に置き換わり、この地のことを「Hindu(ヒンドゥー)」「Hindustan(ヒンドゥスタン)」と呼ぶようになります。「ヒンズー教」、「ヒンディー語」の名称はこのペルシャでの発音に基づくものです。ヨーロッパにはさらに語頭の「h」音が落ち、「Indos〔希〕(インドス)」、「Indus〔羅〕(インドゥス)」の名で伝わります。現在の川の名前「Indus(インダス)」や国名「India(インディア)」は、ヨーロッパ人によって命名されたものです。因みにヒンディ語でのインドの正式国名は「Bharat(バーラット)」です。

大航海時代が始まると「インド」の名はその範囲を飛躍的に広げていきます。インドはインド以東の地の総称として用いられ、「Indochina(インドシナ=インドと中国の間)」、「Indonesia(インドネシア=インドの島々の国)」の地名を産みました。「-nesia」は他にも「Melanesia(メラネシア=黒い島々の国)」、「Polynesia(ポリネシア=多くの島々の国)」、「Micronesia(マイクロネシア=ミクロネシア、小さな島々の国)」の南太平洋の地域名にも含まれていますね。

藍色の染料「indigo(インディゴ=インジゴ)」の名は、その原料となる植物の藍がこの時代にインドよりもたらされたことに因みます。これに関連して、そのスペクトル色から命名された「indium(インディウム=インジウム)」という元素もあります。「indomethacin(インドメタシン)」、「indocyanine(インドシアニン)」、「indole(インドール)」など、化学物質の名前にも良く使われます。

一方、インドを目指して西へ向かったコロンブスは、発見した新大陸を死ぬまでインドだと思い込んでいたため、彼の到達したカリブ海の島々は「West Indies(ウェスト・インディーズ=西インド諸島)」、新大陸の先住民たちは「Indian〔英〕(インディアン)」または「Indio〔西〕(インディオ)」とそれぞれ呼ばれるようになりました(コロンブスが当初目指していたのは日本なので、一歩間違えれば「西日本諸島」が誕生していたかも!?)。アメリカ合衆国19番目の州「Indiana(インディアナ)」の名称は、かつてこの地に多くのインディアンが住んでいたことに由来します。この州の州都「Indianapolis(インディアナポリス)」では毎年500マイルを走破するカーレースが開催されますが、「Indy 500」の愛称で知られていますね。日本にもたらされたりんごの一品種「インドりんご」は、明治時代にインディアナ州の宣教師が苗を持ってきたものです。

以上、インド人もビックリのインド地名オンパレードでした w(@_@)w。