真珠の重み

日本では1959年の計量法施行によってメートル法が全面的に採用され、古くからの度量衡法であった尺貫法は基本的に取引・証明には使えなくなりました。でもその伝統は私たちの言葉の中にいまだ息づいています。

「尺(しゃく)」の字は、人が手の親指と中指を広げて長さを計る様子を表した象形文字だと言われています。「尺取虫」は文字通りその這って進む様が手で長さを計っているように見えますね(なお、尺取虫は英語でも「inchworm」と呼ばれます)。竹で作る縦笛「尺八」の名は、その長さの基本が1尺8寸であったことに由来します。

「アルプス一万尺」という曲があります。子供の頃は「アルプス一万尺〜、子ヤギの上で〜…」と思い込んでいたものです(今から考えると可哀想な子ヤギです)。本当の歌詞は「子ヤギ」ではなく「小槍」。アルプスというのはヨーロッパアルプスでは無くて日本の北アルプスのことで、小槍とは槍ヶ岳のすぐ横にある小さな尖峰のこと。そばにはなんと孫槍・曾孫槍まであるのです。1尺は約30cmなので槍ヶ岳の標高3180mを尺に直すと一万尺強となり計算が合います。因みに原曲は「Yankee Doodle(ヤンキー・ドゥードル)」というアメリカ民謡です。

一方、重さを表す単位を見てみましょう。「貫(かん)」とは一文銭千枚分の重さ。銭の穴に紐を通して(すなわちいて)まとめた単位です。1貫が3.75kgですので、「百貫デブ」の体重はなんと375kg。大相撲の曙関の引退時の体重が233kgでしたから相当の巨漢です。そしてこの「貫」の千分の一の単位すなわち一文銭1枚分の重さが「匁(もんめ)」。「もんめ」とは「文目」の意味で、「匁」の字は「文」と「メ」を組み合わせた形とも言われます。

日常生活ではもはやほとんど使われないこの「匁」ですが、真珠の重さの単位としては現在でも世界的に使われています。株式会社ミキモトの創業者である御木本幸吉が1893年に世界で初めて真珠の養殖に成功して、日本が世界の真珠取引の中心としての役割を果たすようになった結果、日本の質量の単位である「匁」がこの業界の国際共通単位となっていったのです。英語辞典によっては「momme」の綴りで載っています。但しその発音は…「モミ」なんだとか (; ^-^A


おまけ ― 「尺八」のように数や量に由来する言葉として、他にも以下のような語があります。

単語 説明
三文判 銭3文で買えた安物の印鑑
七輪 (「七厘」とも書く)7厘分の炭で煮炊きができる
大八車 (「代八車」とも書く)1台で8人分の仕事ができる
十両 1年分の給料が10両