風流のココロ

今回は和歌に関連する語源雑学です。

「飛鳥」と書いてなぜ「あすか」と読むのか、「長谷」と書いてなぜ「はせ」と読むのか、「春日」と書いてなぜ「かすが」と読むのか、改めて考えてみると不思議です。実はこれらはすべて枕詞に由来する地名表記。天武天皇の時代の西暦686年、赤雉の吉兆にあやかって年号が「朱鳥」と改められ、その皇居も「飛鳥浄御原宮」と改称されたのに因んで、その所在地「明日香(あすか)」に「飛ぶ鳥の」という枕詞が冠せられるようになります。ここから「飛鳥」と書いて「あすか」と読ませる表記が産まれました。一方「はせ」は元々「泊瀬(はつせ)」という今の奈良県桜井市の地名。長い渓谷に挟まれたこの地の枕詞が「長谷(ながたに)の」。読みの方は「つ」が抜け落ちて「はせ」になりました。よくある「長谷川(はせがわ)」という姓の読み方も納得ですね。というわけでお察しのように、奈良の地名「滓鹿(かすが)」の枕詞が「春日(はるひ)の」。こちらは「春の日」→「霞かすみ)がかかる」ことから、「かす」に引っ掛けて「かすが」の冠辞となっています。

食べ物の名前にも和歌に由来するものがいくつかあります。在原業平の歌「ちはやぶる神代も聞かず竜田川からくれなゐに水くくるとは」に由来するのが揚げ物料理の「竜田揚げ」。醤油の色で赤みがかった揚げ物を、竜田川を流れる紅葉に見たてた、なんとも風流な命名です。源順(みなもとのしたごう)が「水の面に照る月なみを数ふれば今宵ぞ秋の最中なりける」と詠んだのは月見の宴の席。この時、菓子として供された丸い餅が後に「最中の月」と名付けられ、和菓子の「最中(もなか)」の起源になりました。「小倉餡(おぐらあん)」の名の由来はちょっと複雑。小豆の粒を小鹿の斑模様に見たて(「鹿の子餅」という京菓子もありますね)、鹿といえば紅葉、紅葉といえば小倉山、という連想が働き、さらに貞信公(藤原忠平)の歌「小倉山峰の紅葉葉心あらばいまひとたびのみゆき待たなむ」の後半部分「いまひとたびのみゆき待たなむ」が、餡の美味を称えていると解釈されて「小倉餡」と呼ばれるようになったといわれています。野暮な私などは「粒餡」→「鹿の糞」なんて想像しかできませんでしたが。

野暮天ついでに最後にもう一つ、「いにしへの奈良の都の八重桜けふ九重に匂ひぬるかな」に因む言葉とは何でしょう?ヒントは、文字通り「風流(=かぜにながれる)」な言葉です。答えはこちらのページ→「女房詞」。


おまけ ― 「決着をつける」という意味で使う「けりをつける」も和歌に由来する言い回しです。助動詞「…けり」で終わる歌が多いことからです。