年に一度の…

「七夕」と書いて「たなばた」と読みますが、これはもちろん宛字で、本来は「棚機(たなばた)」の意味。「棚機」とは棚すなわち横板のついた織機のことで、織姫が使う機織り機を指しています。そういわれると「機(はた)」という字の形も機織り機のように見えてきませんか?さらには「機会」という熟語も、一年に一度しかない二人の逢瀬にピッタリの言葉に思えてきます。因みに「はたおり」が職業姓になったのが「服部(はっとり)」さんです。

古代における最先端技術であった織物は、他にも多くの言葉を生み出しています。北緯・東経と言う時の「緯」や「経」は、それぞれ「横糸」「縦糸」を表す字で、地球に縦横に引いた線を表します。二つを合わせて「経緯(けいい)」と言えば、縦糸と横糸が絡み合ったような込み入ったいきさつを意味します。また、「組織(そしき)」という言葉も、本来は布を織ることを指す語です。

「組織」は、今ではもっぱら英語の「organization(オーガニゼーション)」の訳語として使われていますが、「organization」のもう一つの訳語として「機関」があります。ここで再び「機」の字が登場するところが面白いですね。機織り機のようにいろいろな「機能」を果たすもの(この場合は団体)という意味が込められています。「organization」の仲間である「orgão〔葡〕(オルガン)」や「orgel〔蘭〕(オルゲル=オルゴール)」は、音を出す「機関」ですし、「organ(オーガン=内臓)」は生命機能を司る内臓器官というわけです。「organ」に関連する言葉として、「cybernetic organism(=自動制御生命体)」の略語である「cyborg(サイボーグ=人造人間)」は皆さんも馴染みがあるでしょう。

この「organ」から派生したのが「organic(オーガニック)」。訳語として「有機」が与えられました。「有機化学」は、生命に由来する化合物を対象とする化学、「有機栽培」は、生命に由来する肥料を使って行う農法のことです(なお、否定形の「inorganic」は「無機」と訳されていますね)。つい先日、有機化合物の合成法で日本人のノーベル賞受賞が発表されましたが、年に一度の受賞の「機会」を物にしたお二人に、日本中が「勇気」付けられる出来事でしたね(ちょっと苦しいオチ…(^^ゞ)。