汎なるものたち

かつて「Pan-Am(パンナム)」というアメリカの航空会社がありました。正式名称は「Pan American World Airways」ですが、この「pan」はギリシャ語で「すべての…」を意味を表す接頭辞です。日本語では音も似ている「汎」の字を当てることが多く、例えば「Pan-Americanism」は「汎米主義」と訳されています(発音だけ聞くと「反米主義」と同じですが…^^;)。今回はこの「pan」で始まる単語を取り上げて見ましょう。

ローマにある神殿「Pantheon(パンテオン)」、ギリシャ語で「theos(テオス)」は「神」の意味ですので、日本語に直すと「万神殿」の意味です。ギリシャ・ローマ神話の世界を見てもわかるとおり、ヨーロッパでも古代は八百万(やおよろず)の神を信仰していたわけです。しかし「theos」にあたるラテン語「Deus(デウス)」は、キリスト教が広まるに従って唯一神を表すようになります。「天主教」「天主堂」の「天主」は綴りも同じポルトガル語の「Deus(デウス)」の音訳だと言われています。

「pan」に話を戻しましょう。電車の屋根に取りつけてある「pantograph(パンタグラフ)」、「panto」は「pan」の接続形で「graph」は「…を書く(描く)」、合わせて「全体を描く道具」の意。もともと「pantograph」とは、菱形を二つくっつけたような形をした製図器具「写図器」のことだったのですが、同じように伸び縮みする電車の集電装置にこの名前がつけられたというわけです。

最後はフランス語から輸入された「pantalon(パンタロン)」。語源は「すべてのライオン」を意味するベネチアの守護神「Pantaleone(パンタレオネ)」です。この神はだぶだぶのズボンをはいていたのですが、典型的ベネチア人を演じる道化役者がこのズボンを採用、これがフランスに伝わったといわれます。この「pantalon」が名実共に短くなったのが「pants(パンツ)」や「panty(パンティ)」というわけです。

他にも「pan」で始まる単語には「panorama(パノラマ)」、「pantomime(パントマイム)」、「pangram(パングラム)」の普通名詞に加え、「Pandora(パンドラ)」、「Pangaea(パンゲア大陸)」、「Panasonic(パナソニック)」などの固有名詞もあります。興味の有る方は辞書をめくってみてください。えっ、「Panasonic」が載ってないって?ごもっとも。『語源探偵団』を訪ねてみて下さい。