ローマへの道
ドイツに「Romantische Strasse(ロマンティッシュ・シュトラーセ=ロマンチック街道)」と呼ばれる街道があります。街道沿いの川辺のベンチで恋人が愛を語らっている、そんな光景を想像してしまいますが、この道の本来の役割は「ローマ街道」、すなわちローマ帝国がヨーロッパ各地を支配するために建設した道路です。すべての道はローマに通ず、というわけですね。
「romantic(ロマンチック)」、「romance(ロマンス)」という単語も、本来は「ローマ風の」という意味です。古典ラテン語ではなく、そこから派生したより親しみやすい言葉で書かれた物語のことを「romantic」、「romance」と呼び、その内容が恋愛に関するものが多かったことから現在のような意味になりました。日本語では「浪漫」という漢字まで当てられていますね。
他にローマを語源とする単語には「rum(ラム=ラム酒)」があります。一説にフランス語由来の「rumbuillion(=ローマの熱い飲み物)」の後半が省略されたものですが、ここで言う「ローマの」とは「すぐれた」というニュアンスです。中世暗黒時代に対して「古き良き時代」であったローマ時代は、言葉にも概して良い印象を残しているようです。「Rumania(ルーマニア)」も「ローマ人の住む地」という意味で、ルーマニアの人々は自分たちがローマ人の末裔であることを非常に誇りに思っています。
これに対して、他の民族名や国名に因む単語にはロクな意味を持たないものが多くあります。「Gothic(ゴシック=ゴート人の)」は今でこそ中世の芸術様式を表す一般用語になっていますが、元々は「野蛮な、悪趣味な」という意味合いでした。「slave(スレーブ=奴隷)」はビザンチン時代によく奴隷として使われた「Slav(=スラブ族)」を、「vandalism(ヴァンデリズム=破壊行為)」は5世紀初めにガリア・スペインを侵略した「Vandal(=ヴァンダル族)」を、それぞれ語源とします。特にひどいのが植民地時代にイギリスとのライバル関係にあった「Dutch(ダッチ=オランダ人)」。「Dutch act(ダッチ・アクト=オランダ人の行動→自殺)」、「Dutch treat(ダッチ・トリート=オランダ人の奢り→割り勘)」、「Dutch courage(ダッチ・カレッジ=オランダ人の度胸→酔った上での空元気)」と、どれも散々の言われ様ですね。
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