スコットランド異名譚

イギリスの北部1/3程度を占めるスコットランド地方。9、10世紀頃まではゲール語で「Alba(アラパ)」と呼ばれていました。本来はグレートブリテン島全体を指す「Albion(アルビオン)」に因む名ですが、この名称自体もともとはドーバー海峡から見える白い岸壁を指す言葉で、ラテン語の「albus(アルブス=白い)」と関係があるとされています。「白亜紀」という地質年代は、このイギリス南東部の石灰層から命名されました。「Albion」は「美白」を追求する化粧品会社の名前にもなっていますね。この「albus」に由来する単語には「album(アルバム←書き込みをするための白い板)」、「albumen(アルブミン←蛋白質(=卵白の成分)の一種)」、「albino(アルビノ=色素欠乏症の生物)」などがあります。セイコーの時計ブランド「ALBA(アルバ)」は、イタリア語で「夜明け、黎明、始まり」の意味ですが、こちらも「白」シリーズの仲間です。また一説によると、白い峰の連なる「Alps(アルプス)」もこれらの語の親戚です。

スコットランドのもう一つの異名に「Caledonia(カレドニア)」があります。ラテン語由来の詩的表現で、原義は「木の多い」という意味ですが、日本人にとってはオーストラリアの東に浮かぶ、天国に一番近い島「New Caledonia(ニュー・カレドニア)」の方が有名ですね。イギリスの探検家キャプテン・クックが、この島の山がちな地形にスコットランドの風景を重ね合わせて命名しました。

現在の名称の「Scotland(スコットランド)」は、アイルランドから渡ってきた民族の名に由来しますが、こちらも古名に負けじとさまざまな言葉を生み出しています。そもそも人名として「Scott」という名前はファーストネームとしてもラストネームとしてもかなりポピュラーな名前です。「Scottie」というティッシュのブランドは、米国の製紙会社を起こしたスコット兄弟の名を冠したものです。地名としてはカナダ東部の半島「Nova Scotia(ノバ・スコシア=新スコットランド←スコットランド王より下賜された土地)」やロンドン警視庁の別名「Scotland Yard(スコットランド・ヤード←警視庁があった通りの名前)」がありますね。物の名前としては、英語で「Scotch」と言えばウイスキーかセロテープを指しますが、後者は、米国3M社の製品名「Scotch tape(スコッチ・テープ)」のこと。スコットランド人は「倹約家」、悪く言えば「ケチ」というイメージを持たれているのですが、開発中のマスキングテープを試用した塗装業者が、テープがすぐに剥がれてしまうことに腹を立てて「お前のスコットランド人の(=ケチな)上司にもっと粘着剤を付けるように言ってやれ!」と怒鳴ったことからテープ製品全般のブランド名として採用されたという話です。姉妹製品「Scotchgard(スコッチガード)」と共に、スコットランドの象徴であるタータンチェックのデザインでお馴染みですね。因みに「Sellotape(セロテープ)」はイギリスの会社のブランド名。ということは本場イギリスでは「Scotch」が通じない!?