おまえの父さん…
かつて一般市民が姓を持っていなかったのは日本も西洋も同じ。今回は「姓が無かった頃が偲ばれる姓」をご紹介しましょう。
光の波動説を唱えたイギリスの物理学者「Thomas Young(トーマス・ヤング)」さん、歳をとれども名前は「young(=若い)」。これは姓が無かった頃に、同じ集落内の二人のトーマスさんを区別するのに「年上のトーマス」、「若い方のトーマス」と呼んでいた名残です。この「young」にあたるドイツ語が「jung(ユング)」。スイスの名山「Jungfrau(ユングフラウ=若い女性)」の名にも使われていますね。姓としてはスイスの心理学者「Carl Gustav Jung(カール・グスタフ・ユング)」が有名でしょう。
英語の姓には「Johnson(ジョンソン)」、「Jackson(ジャクソン)」、「Robinson(ロビンソン)」と、「son」の付く姓が多くあります。「son」を取ってみると「John」、「Jack」、「Robin」と面白いことにどれもファーストネームになります。実はこれらの「son(サン)」は日本語の「〜さん」にあたる接尾語で…というのは冗談で、そのまんま「息子」の意味。つまり「Jackson」は「ジャックの息子」というわけです。集落の規模が小さかった頃は姓が無くとも「ジャックの息子のマイケル」などと呼べば用が足りたのですね。「William(ウィリアム)」の息子で「Wilson(ウィルソン)」などという省略形(?)もありです。こういう名前を「父称」というのですが、他の言語にも「Andersen(アナスン、例:デンマークの童話作家、通称アンデルセン)」、「Amundsen(アムンゼン、例:ノルウェーの探検家)」、「Mendelssohn(メンデルスゾーン、例:ドイツの作曲家)」など多くの例が見られます(但し「Mendel」は姓)。スコットランド系の名前である「MacArthur(マッカーサー、例:米国陸軍元帥)」、「McDonald(マクドナルド、例:ハンバーガー屋)」も同じく「〜の息子」の意味。アイルランド系の「O'」、フランス語の「de」、イタリア語の「di」も同様の働きをします(但し地名が付くこともあります)。
この命名法がいまだ根強く残っているのがロシア。今でもロシア人のミドルネームは父親の名前から自動的に付けられます。ロシア人の名前と言えば「なんたらヴィッチ」ですが、この「vich」が言ってみれば「〜の息子」の意味。例えばエリツィン元大統領のフルネームは「Boris Nikolayevich Yeltsin(ボリス・ニコラエヴィッチ・エリツィン)」ですが、これから彼のお父さんの名前は「Nikolai(ニコライ)」だと分かるというわけです。但し同じ息子は息子でも「サノバビッチ」はロシア人ではありませんのでお間違いなく。(注:「son of a bitch(サノバビッチ=あばずれの息子≒おまえの母さんデ〜ベ〜ソ )」)
おまけ ― ついでにセイコーエプソン社の「EPSON」も息子。同社が開発した世界初のミニプリンタ「EP(Electric Printer)」シリーズにあやかって名付けられました(参考:「セイコーエプソン株式会社」)。
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