ステキなエチケット
英語の「stick(スティック))」とはご存知の通り「棒」の意味。明治時代には杖を意味する「ステッキ」の形でも取り込まれています。「stick」と兄弟関係のドイツ語「Stock〔独〕(シュトック)」は、更に用途を限定して、スキーや登山用の特殊な杖「ストック」となりました。今回はこの「stick」の仲間を見ていきます。
今でこそ鉄板や網で焼くことが多い「steak(ステイク=ステーキ)」。本来は肉を棒に串刺しにして焼いたものでした。ところで、単にステーキと呼ぶといわゆる「ビフテキ」のことを指しますが、「beef steak(ビーフ・ステーキ)」を略して「ビフテキ」としたのは、意外にも日本人ではなくフランス人で、フランス語で「bifteck(ビフテック)」と呼ばれます(「トンテキ」はもちろん日本人!)。
ビジネス用語として一般的になってきた「stakeholder(ステイクホルダー)」。「ステーキホルダー」という発音・表記にならなかったことが、この単語が輸入された時代の新しさを示しています。「stake(ステイク)」が「stick」の仲間で「杭」、「stakeholder」は「杭を持つ人」。かつて杭を使って土地を区画し、所有権を主張していたことに由来するとされています。
他に「棒」としての「stick」の仲間には、棒で指した跡の穴を指す「stitch(スティッチ=ステッチ、縫い目)」や、本来は編み棒で編んだ靴下だった「stocking(ストッキング)」などがあります。「棒」とは形状が異なりますが、「切り株」を指す「stock(ストック)」も「stick」の親戚。「stock」は時代が下ると、切り株から植物が育つイメージからか、「蓄え」や「株券」も意味するようになりました。日本語でも「切り株」と「株券」に同じ「株」が使われる点は非常に興味深いところです。
さて、「stick」にはもう一つ、棒などで刺して「留める」という動詞の意味があります。「sticker(スティッカー=ステッカー)」は貼り付けた紙、車がぬかるみなどで立ち往生することを「stuck(スタック)」すると言いますが、この「stuck」は「stick」の過去分詞。ピン留めされて動けなくなるイメージです。「スティックのり」は「棒」と「留める」の両方の意味を兼ねた秀抜な商品名かも!?
「sticker」に対応するフランス語が「étiquette(エチケット)」。フランス語では頭に「é」が付いて「s」が抜けたので全然違う単語のように見えますが、このような対応は他にも、「school〔英〕(スクール=学校)」に対する「école〔仏〕(エコール)」や、「star〔英〕(スター=星)」に対する「étoile〔仏〕(エトワール)」のような例があります。「étiquette」には単に値札や荷札の意味もあり、ワインのラベルのことも指したりしますが、宮廷に招かれた際の招待状の意から儀式で守るべきマナーを意味するようになりました。
この「étiquette」から「é」が抜けて英語に再輸入された単語がご存知「ticket(チケット)」。最近では電子チケット「e-ticket」として、「e」が復活する兆しがありますね ^^;
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