イヌる、ネコる、コウノトる
名詞や動詞の形態に特にルールの無い英語では、動物を表す名詞が動詞としても使われる例が多くあります。例えば「dog(ドッグ=犬)」には「The police dogged the thief.(=警察は泥棒を追跡した。)」といった具合に「尾行する、つきまとう」という動詞としての意味があります。他にも「monkey(モンキー=猿)」が「いじくる、いたずらする」、「horse(ホース=馬)」が「発情する」、「wolf(ウルフ=狼)」が「がつがつ食う」、「恋人を横取りする」といったユニークな「動物動詞」があります。
「cat(キャット=猫)」はこのような動詞の意味を多く持つ単語。「吐く」、「女の尻を追い回す」、「忍び足で歩く」は分かりますが、「鞭で打つ」の意味には説明が必要でしょう。西洋の歴史映画を見ていると縄を何本か束ねたものを鞭として利用していることがありますが、この鞭のことを英語で「cat-o'-nine-tails(=九尾の猫)」と呼ぶのです。なぜ「猫」なのかというと鞭の跡が猫の引っかき傷に似ているから。なぜ「九」なのかは謎ですが、「A cat has nine lives.(猫に九生あり→なかなか死なない)」という諺と何か関係あるかもしれません。日本語で「九尾の…」と言えば狐ですけどね。
ではその「fox(フォックス=狐)」にはどのような意味があるのでしょうか。狐のイメージは不思議なことに洋の東西を問わず同じで「騙す、あざむく」の用法があります。「a fox's sleep」と言えば「狸寝入り」ならぬ「狐寝入り」。変わった用法としては「The old book was badly foxed.(=その古い本はひどく変色していた。)」なんてのもあります。日本語で「キツネ色」と言えばおいしそうなパンを思い浮かべますけどね。
お次は「bear(ベア=熊)」。こちらは証券・株式業界の用語として「価格を下落させる」、「売り崩す」。一体全体なんでこんな意味になったのかというと、「sell the bearskin before catching the bear(=取らぬクマの皮算用)」の慣用句から。日本語では皮算用と言えば「狸」と相場が決まっていますけどね。
「動物動詞」になるのは哺乳類だけとは限りません。同様に「鳥動詞」もあります。「crane(クレーン=鶴)」は動詞になると「起重機で持ち上げる」。そう、建設現場や荷揚げ港で利用される「クレーン」はその形が鶴の首に似ていることから名付けられたものです。因みに蛇口のことを「カラン」といいますがこちらもオランダ語の「kraan(クラーン=鶴)」が語源です。
タカ派の対義語としても使われ、穏便な鳥と考えられている「pigeon(ピジョン=鳩)」。名詞としての用法も「Here comes our pigeon.(=ハトが葱背負ってやってきた。)」となるように動詞の意味は「カモにする」。う〜ん、やっぱり鳩より鴨の方がおいしそうですね^-^;。鴨は日本語には珍しい鳥動詞「カモる」を生み出しています。しかし鳥動詞の傑作は何といっても「stork(ストーク=コウノトリ)」でしょう。その意味は…「はらませる」です。但し社会問題となっている「ストーカー」の綴りは「storker(=はらませ屋?)」ではなく「stalker」ですのでお間違えの無いように
おまけ ― 英語の「swallow(スワロー=燕)」の動詞用法は「飲み込む」。漢字でも口偏に燕と書く「嚥」の字は「飲み込む」の意味になるところが面白いですね。では日本語では?という話。現在のヤクルトスワローズはかつての国鉄が所有する球団でした。チームの愛称を考案中、「燕」と「コンドル」の二つの案があったのですが、やはり鉄道は「混んどる」よりは「座ろう」の方が良いだろう、ということで「スワローズ」が採用された、との伝説があります(実際は、国鉄を代表する特急「つばめ」からの発想です ^^;)。
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