キャベツ畑の恐怖

伴奏なしで歌うことを「アカペラ」と言います。私はてっきり、い舌をぺらぺらさせながら歌うから、と思っていたのですがオイオイ、実は「a cappella」という立派なイタリア語です。「cappella」を英語に直すと「chapel(チャペル=礼拝堂)」。つまり礼拝堂で歌っていたのがア・カペラ音楽というわけです。喜劇俳優「Charlie Chaplin(チャーリー・チャップリン)」の姓は、彼の先祖が礼拝堂に務める牧師だったことを示唆しています。

「cappella」の語源をもう少したどってみましょう。昔、聖マルタンという人が乞食に自分の外套を二つに切って分け与え、その片方が神聖なものとして祭られた建物が礼拝堂の始まり。マントを指すラテン語「cappa(カッパ)」から出来た言葉です。この単語がポルトガル語を通じて入ってきたのが雨具の「合羽(かっぱ)」、英語を通じて入ってきたのが女性が羽織る「cape(ケープ)」です。「外套を置いて」逃げることから「escape(エスケープ=逃げる)」という単語も派生しています。

さらにこの「cappa」の語源を追うと、ラテン語の「caput(=頭)」に行き着きます。頭にかぶせる「cap(キャップ)」もこの単語から派生。降参して「シャッポを脱ぐ」(死語ですが)という表現は、やはり同じ語源のフランス語「chapeau(シャポー=帽子)」に由来します。「ポシャる」という表現はこの「シャッポ」をひっくり返してできたとの説もあります。イタリアのコーヒー「cappuccino(カプチーノ)」の語源はちょっと複雑。イタリアのカトリック修道会の一つ「Capuchin(カプチン)」会の名は、修道士がかぶるその特徴的な頭巾「cappuccio(カプッチョ)」に由来するのですが、コーヒーにミルクを混ぜたこの飲み物の色が彼らの修道衣の色に似ていたところから(または上に乗せたクリームを僧侶の頭巾に見立てて)名付けられました。

チームの頭「captain(キャプテン)」、国の頭「capital(キャピタル=首都)」など、「caput」には他にも多くの派生語があります。文の頭に来る文字が「capital letter(=大文字)」、頭を刎ねるのが「capital punishment(=死刑)」というのも納得です。音楽用語で「da capo〔伊〕(ダ・カーポ)」といえば「頭(最初)から繰り返す」の意味。「野に咲く花のように」などで有名な「ダ・カーポ」という夫婦デュオもいますね。「cabbage(=キャベツ)」も「p」が「b」に変化してはいるものの「caput」の仲間。確かに大きさといい形といい「頭」ですよね。そう考えるとキャベツ畑って結構怖い風景かもしれません ^-^;)。