高度N35°

基礎医学に対して、実地に患者を治療する医学を臨床医学と呼びますが、この臨床という言葉、ドイツ語の「Klinik(クリニック)」の意訳です。英語の「clinic(クリニック)」に対応するこの「Klinik」にはお馴染みの「診療所」の意味もありますが、その語源はギリシャ語の「kline(=寝床)」。実際に患者が横たわる寝台に臨んで処置する医学が「臨床」というわけです。

さらに「kline」の先祖を辿ると「klinein〔希〕(=傾く)」に行き着きます。頭の「k」が落ちていますが英語の「lean(リーン=寄りかかる)」も同源の単語。人が横たわるのが寝床というわけです。「reclining seat(リクライニング・シート)」は「傾く椅子」、「climax(クライマックス)」も「klimax〔希〕(=梯子←壁等にもたせかけるから)」を介した派生語で、本来は梯子を登っていくように次第にトーンを高めていく弁論術を指していたのが、最高潮を意味するようになったものです。

変わった派生語としては「climate(クライミット=気候)」があります。古代、緯度が上がるにつれて気温が下がることを、地表が赤道から極に向かって傾いているとして説明したことに由来します。日常の生活範囲内で場所によって気温が変わる要因といえば高度しかなかったからでしょう。今でも緯度の大小を「high latitude(=高緯度)」、「low latitude(=低緯度)」と英語でも日本語でも高さで表現しますね。

これとはちょっと違いますが、日本語で天気が悪くなる傾向にあることを「お天気は下り坂に向かいます」などと表現しますが、なぜ逆の表現「天気は上り坂」は無いのでしょうね (・_・?