する人される人
英単語の語尾「er」が「〜する人」あるいは「〜する物」を意味する、ということは、英語を習い始めるとすぐ気が付くことです。けれどもカタカナ語として日本語にしっかり定着している単語にはこのルールを当てはめるのを忘れがち。「コンテナ」=「contain(コンテイン=包含する)」+「er」、「ファスナー」=「fasten(ファスン=締める)」+「er」、「コンベア」=「convey(コンベイ=伝達する)」+「er」、「シンナー」=「thin(シン=薄める)」+「er」などに気が付けば、英語の動詞を覚えるのに役立ちます。
「er」に比べれば数は少ないけれども「〜される人、〜される物」をあらわす語尾もあります。それは「ee」。「employee(エンプロイー=従業員)」は「employ(エンプロイ=雇用する)」される人、「referee(レフリー=審判)」は問題が起きたときに「refer(リファー=照会する)」される人、「committee(コミティー=委員会)」は議題を「commit(コミット=委託する)」される人たちのことです。
この「ee」はフランス語の過去分詞の語尾「é(エ)」が変化したもの。そういう意味ではもと過去分詞であったはずの「referee」に「審判を務める」という動詞用法まで生まれているのは面白いところです。もともと英語には短母音「エ」で終わる音節が無いため、「イー」の発音に置き換えられることがよくあります。日本語からの「sake(=酒)」、「karaoke(=カラオケ)」が「サキー」、「カラオキー」と発音されるのも同じ理由。この発音の変化に引っ張られてフランス語の「employé(アンプルワエ)」が「employee」の綴りへと変化していったのでしょう。人気アニメ「ポケモン」は、アメリカでは「Pokémon」と「e」にアクセント記号をつけてあります。これはおそらく「エ」と発音させようとした苦肉の策だと思いますが、その努力も報われず「ポキモン」と発音されています。
閑話休題。フランス語は過去分詞を名詞として使うのがなぜかお好き。「appliqué(アップリケ)」は英語の「apply」に当たる「appliquer(アプリケール=当てる)」の過去分詞、「coupé(クーペ)」は2ドアのスポーツカータイプの乗用車を指しますが、「couper(クーペール=切る)」の過去分詞。今でこそ流線形のカッコイイ車ですが、かつては運転手+乗客二人乗りの馬車を指し、乗客の部分のみに屋根のある形からこの名が付きました。ついでに「coupon(クーポン)」も「couper」と同語源、「切って」使う券のことですね。
フランス語からの言葉といえばやはり食べ物系。「コッペパン」もこの「coupé」がなまったもので、本物のコッペパンは背中に切れ目が入ってなければなりません(給食に出てくるコッペパンはニセモノ!)。「sauté(ソテー)」は「sauter(ソーテール=炒める)」、「consommé(コンソメ)」は「consommer(コンソメール=完成させる)」、「fondu(フォンデュ)」は不規則変化する動詞「fondre(フォンドル=溶かす)」のそれぞれ過去分詞。「biscuit(ビスキュイ=ビスケット)」は「bis(=二度)」+「cuit」で、「cuit」はやはり不規則動詞の「cuire(キュイール=焼く)」の過去分詞です。ビスケットのサクッとした歯ざわりの秘訣は二度焼くことにあったのですね。
謝辞 ― このエッセイを書くにあたって読者のペルセさん、松下さんに情報を頂きました。m(_"_)m
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