言葉をたどって幾千里

日本語に「赤の他人」という表現がありますが、一体何が「赤い」のでしょうか?「赤」には「真っ赤な嘘」のように「まったくの」という意味があることから、とも説明できますが、私が個人的に好きなのはサンスクリット語(梵語)で「水」をあらわす単語「argha」を起源とする説。すなわち「水くさい関係」というわけです。この「argha」は元々は仏教用語として伝えられ、和歌や古文にもしばしば出てくるように仏に水を供える棚のことを「閼伽棚(あかだな)」と言います。船底に溜まった水のことを「淦(あか)」と呼びますがこれも同起源ではないかと言われています。

サンスクリット語とヨーロッパの諸言語は同じ印欧語族に属すため、共通の語源を持つと考えられる単語が多くあります。この「argha」も例外ではなく、ラテン語の「aqua」と兄弟関係。清涼飲料水「Aquarius(アクエリアス=水瓶座)」、潜水用の「aqualung(アクアラング←水中の肺)」、宝石の「aquamarine(アクアマリン←海の水)」などの英単語を派生しています。

もう一つ仏教用語を辿ってみましょう。「摩訶不思議」との言い回しがありますが、この「摩訶(まか)」もサンスクリット語起源、「大きい、偉大な」の意味の「maha」に由来します。インドの富豪「maharaja(マハラジャ=大王)」、ガンジーの名に付ける尊称「mahatma(マハトマ=偉大な魂)」、オーム真理教の経営していたパソコンショップ「Mahaposha(マハポーシャ=豊かな富)」などの例があります。

この「maha」と同一起源とされるラテン語が「magnus(マグヌス=大きな)」。「h」と「g」ではかなり違うような気がしますが、現在のヒンディー語の「h」は「喉音」と言って喉の奥で発音されることを考えるとまんざら遠い音でもありません(痰を切るときのような音を想像してみて下さい)。スペイン語では現在でも一部の「g」の綴りは喉の奥からの「h」として発音され、英語の今でこそ発音されない「gh」の綴りもかつては似たような発音だったのでしょう。

というわけでこのラテン語の「magnus」はその比較級「major」、最上級「maximus」とともに「magnitude(マグニチュード)」、「majority(マジョリティー=大多数)」、「maximum(マクシマム=最大限)」など、英語だけを見ても多くの子孫を遺しています。

言葉をたどってのインド経由ヨーロッパ旅行、いかがでしたか?