カタカナ語の魔術

カード・ア・ラ・カルト」では「違う国から入ってきた同じ意味の単語が、違う言葉として使われる」例を挙げましたが、今回は「同じ国から入ってきたまったく同じ単語が、違う言葉として使われる」例をご紹介しましょう。

英語に「strike(ストライク)」という単語があります。今更日本語に訳すのは難しいですが、戦時中の野球用語で言えば「よし」。ところでこの「strike」にはもう一つ、労組の最終手段「ストライキ」の意味があります。同一単語から「ストライク」「ストライキ」と二つの違った単語が派生した面白い例です。他にも「lemonade(→ラムネ、レモネード)」、「truck(→トロッコ、トラック)」、「machine(→ミシン、マシン)」、「jack(→ジャッキ、ジャック)」などの例があります(参照:『言語学のお散歩』の『ロニオリ〜目の言葉・耳の言葉』)。「break(ブレイク)」「brake(ブレーキ)」のように、同音異義語から異音異義語が派生した例もありますね。

単数形か複数形の違いで意味が変わってくる外来語すらあります。「sheet(シート)」と言えば地面に敷くものですが、「sheets(シーツ)」と言えば布団に敷くもの。「nut(ナット)」と言えばボルトにはめる金具ですが、「nuts(ナッツ)」と言えば木の実に変身します。もちろん原語である英語においてはこのような単複による意味の区別はありません。

さらにすごいのが「battery(バッテリー)」という単語。アクセントなしで日本語っぽく「バッテリィー」と発音すると「蓄電池」のこと、逆に「バ」にアクセントを置いて「バッテリー」と発音すると、これまた野球用語で「ピッチャーとキャッチャー」のことを意味しますね。同一綴りの外来語がそのアクセントによって意味が変わるというこれまた興味深い例です。本来の英単語は「バッテリー」ですから、日本人が英語のアクセントに慣れていなかった頃に入ってきた「蓄電池」と、比較的最近になって野球中継で使われるようになった用語の違いと言えるでしょうか。

同様の外来語に「driver(ドライバー)」がありますね。「ドライバァー」と「ドライバー」を発音してみてください。違いが分かりましたか?但しねじ回しの方のドライバーは、英語では「screw driver(スクリュー・ドライバー)」と言わなければ通じません。同名のカクテルは、油田で働いていたアメリカ人が好んで飲んだもので、ベースのウォッカとオレンジジュースを混ぜるためにマドラーの代わりにねじ回しを使ったことに由来します。

う〜む、それにしても奥が深い日本のカタカナ語…。